大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所八王子支部 平成8年(ワ)123号 判決

東京都立川市曙町二丁目八番二八号

原告

多摩中央信用金庫

右代表者代表理事

菅屋忠正

右訴訟代理人弁護士

須崎市郎

東京都小金井市東町四丁目一八番五号

被告

多摩信住宅販売株式会社

右代表者代表取締役

小窪清

右訴訟代理人弁護士

下井善廣

井手大作

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

1  被告は、「多摩信住宅販売株式会社」の商号を使用してはならない。

2  被告は、東京法務局府中出張所平成七年六月一六日受付被告設立登記中、「多摩信住宅販売株式会社」の商号のうち、「多摩信」の部分の抹消登記手続きをせよ。

第二  事案の概要

本件は、信用金庫法に基づき設立され昭和二六年から金融等の業務を営む原告が、不動産の取引を目的として平成七年に設立された被告に対し、被告の商号の一部に原告の呼称を使用しているのが不正競争行為に該当するとして、商法第二一条、不正競争防止法第二条第一項第一号、同法第三条によって、被告商号の使用禁止、並びに商号の一部抹消登記手続きを請求したという事案である。

一  当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実

1  原告が、「多摩中央信用金庫」という商号を用いる東京都立川市に本店を置き、昭和二六年から金融等業務を営む信用金庫であり、現在、多摩地域に四九の営業店を開設していること(甲三の一)、

2  被告が東京都小金井市に本店を置き、不動産の取引を目的として、平成 年六月一六日「多摩信住宅販売株式会社」の商号の下に東京法務局府中出張所受付第二三四三号をもって設立登記された株式会社であること(甲一)、

二  争点

(1)原・被告の商号は類似するか、(2)被告が不正競争の目的でその商号を使用しているといえるか。

第三  争点に対する判断

一  商号の類似について

商号が類似するか否かは、商号の主要部分が同一または類似しているため取引の上で世人をして混同誤認を生じさせるおそれがあるか否かによって決定すべきであり、その判断をするには、その商号自体を比較して観察しなければならない。そして、その場合には略称が使用されているのならば、使用されている略称をも考慮して混同誤認のおそれがあるか否かを判断すべきである。

原告が東京都多摩地域で業務を展開している信用金庫であり原告を示す特定固有名ないし略称として「多摩信」、「たましん」もしくは「タマシン」が広く使用されていること、原告が出資している株式会社は原告と関連があることを示す趣旨で商号の一部に「たましん」又は「多摩」という文字が使われていること(甲三の一ないし六、四の一ないし三、六の一、二、七の一ないし四)が認められ、以上の事実と原告の商号「多摩中央信用金庫」と被告の商号「多摩信住宅販売株式会社」とを比較すれば、被告の商号が、世人をしてあたかも原告が出資する関連会社の一つであるかのように混同誤認させるおそれがあることは否定できない(証人冠幸二郎)。しかし、原・被告の商号自体から原告の営業種目が信用金庫としての金融業であり、被告の営業種目が住宅販売であることも極めて明白であり、被告の商号から被告を原告と混同誤認させるおそれが全くないことも明らかである。

二  不正競争の目的について

被告が被告の商号の主要な部分に「多摩信」を用いたのは多摩地域で広く認められている原告の信用を利用しようとしたことにあることは、被告の商号の一部に「多摩信」を採用した理由についての被告代表者の供述が曖昧模糊としたものであることからも明らかである。しかし、商法二〇条にいう「不正競争の目的」とは「自己の営業を他人の営業と混同誤認させて競争し  する目的を言い、他人の商号ないし営業の有する信用ないし経済的価値を自己の営業に利用しようとする意図」(不正競争防止法二条の「不正競争」も同趣旨)であるが、この場合に自己と他人との営業が同種であることを要するか否かについては争いがあるとしても、少なくとも競争関係にあることは必要である。ところが、この点についても、原告と被告とは競争関係にはないことも明らかなのであるから、被告には商法二〇条にいう「不正競争の目的」及び不正競争防止法二条の「不正競争」には該当しないと言わざるを得ない。

三  結語

以上のとおりとすると、原告の請求はその余について判断するまでもなく理由がない。

(裁判官 畔柳正義)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例